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更新日誌2009.12.16 怪猫始末記。

更新日誌2009.12.16 怪猫始末記。

 怪猫始末記。参考画像、とくになし。
 何日か前から家のうちそとが異様にしつこく臭い。臭ったり臭わなかったり、臭気の素がどこなのかもはっきり特定できないんだが、臭い。安アパートの古いトイレの排水口から漂ってくるような臭さだ。
 パイプクリーナーなどを買ってきて、数日、試してみたけれど、めざましい効果はナシ。
 もしかして、と。戸外にあるスティール製の物置のまわりを片づけたんである。すると、コンクリートの底面にうごめいている白い奴らがいっぱいいるではないか。どっから見ても、可愛らしいとはいいにくい。ウジだ。蛆、便所虫だ。
 これは、ついに、最悪の事態くわぁっ。
 物置は、四隅にブロックを据えて、その上に建っている。ブロックの分は下に隙間があくのだ。その隙間を覗いた。長方形の短い辺のほうから長いほうを覗いた。暗くて、よく見えない。蛆のわいている一辺にもどって、棒でもって下を探ってみた。棒の先がゴツンと何かに当たる手応え。ゲッ。やめてくれよ。覚悟を決めて、そこから隙間を覗いてみた。茶色の毛玉のようなものが見えた。間違いない、これは。
 猫が死んでる。
 居間のあたりまで臭いが襲ってきた日、つい口走ってしまったことがある。床下で猫でも死んでんでねえの、と。まさか、それが現実となってしまった。ここ何日かの臭いには、妙なことに、個人差があった。同じ所にいても、激しく臭いを感じる者とまったく感じない者に分かれる。臭い臭いと騒ぐのが少数派だと、「気のせいだろが」と罵られたりする。くやしいので、つい、あらぬことを口走ったりしたんだが。妄想どころじゃなく、現実に、死んでる。
 レポートを綴っている今も、隣家でエサをねだるノラのわめき声がやかましい。うるせえ。ムカツク。気まぐれでエサを与えるから、何匹も居ついて、縄張り争いやらナンやらで壮烈に賑わうのだ。
 町内の猫住事情は、あまりよろしくない。いつもいつも多数のノラが出没する。近くの公園に集団がたむろしていた時期もあって、これは、散歩途中にエサをやる「博愛」側とドクをまき散らす「自警団」側との決裂にいたった。勝ちをおさめたのがどちらかは、申すまでもないだろう。サダムをひねり潰したブッシュのイラク戦争みたいなもの(ちょうど時期も重なっていた)。
 もう一方の隣は、十匹居住の猫屋敷だが、完全な室内飼いだ。うちは二匹同居でスケールは違うけれど、準室内飼い・時どき脱走、同居のストレスは飼い主にも飼われ猫にもかなり蓄積する。蓄積はするが、殺意にまで高まることは、今のところ回避できている。
 気まぐれでエサをふりまく所には、どうしてもノラの底辺層が集まる。どいつも独立心旺盛で、人間をなめている。その一匹で全身茶色の毛足モコモコの奴がいた。うちのまわりを生意気に闊歩し、時には玄関先に超臭のマーキングをひっかける。こちらもいきおい敵意をもって応じ、近くで見つければ、死ネーッと追いかけるのもしばしばだった。
 そいつなのだ。死んでいたのは。
 発見後、約一時間経過して。
 物置の荷物をすべて外に出し、物置本体を移動した。
 ご遺体と対面である。間違いなく、こいつだ。天敵みたいに追いまわした茶色のワル。死ネーッとは叫んだが、あれは、罵声にすぎない。念殺の能力があったら、もっと有効に使うし。わざわざ、ここに潜りこんで死んでくれと頼んだか、おい。
 物置の屋根上はノラの寝床になりやすいので、いつも気をつけてはいた。ダンボールなどを置いて空間はふさいである。下に潜りこまれるとは盲点だった。腹ボテが仔を生みつけにくるのを心配したことはあったが、隙間をふさぐことまではしていなかった。死に場所に選んでくる奴がいるとは、まったくの想定外。
 変わり果てた姿を目の前にしては、もはや言うことはない。超臭マーキングや無礼の数かずも許してやろう。
 夏でなかったのが、せめての幸い。死後一週間は経っているはずだが、正確なところはわからない。
遺骸を持ち上げると、成人猫の大型なのに、剥製のようにはかなく軽かった。遺骸の下には、身体の大きさ分のウジが踊っていた。もう内臓などは喰い尽くしていたのだろう。口からもぼろぼろとウジがこぼれる。下アゴは骨が露出して、真っ黒になっていた。
 後はひたすらウジ退治。あんなに大量なのは初めてだ。
 その日は、線香を絶やさず。
 こんなところに迷いこんできて絶命するのも何かの因縁か。……みたいなことは想ったりもしないけれど。縁薄かった猫たちとの還らざる日々に舞いもどっていくような不安につつまれる。
 合掌。
 手順としては、ここで写真を記録して、レポートに添付しておくんだろうが、省略。インターネット日記の作法には、どうも適応できなくて。
 いや、ハードな一日であった。

 思い出すのは、数年前に、駐車場で死に猫を片づけたこと。夏なので焦っていた。三匹いたが、あれは仔猫だったし。
 一説に「自警団」毒殺派(J大寺のブッシュ)の戦果だ。
 もちろん報復は試みなかったけれど。忘れられない出来事だった。

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