更新日誌2009.05.17 黒石がいた。
黒石がいた。
文学史上の定説をくつがえすとかいっても、発掘されるべき鉱脈はもう残っていないだろうな。と思っていた。諦めに近く。
空白ページを埋めるというのか。マイナー・リーグの人なら、それなりに見つけられても。主観的な尺度はどうにでもなるものだし。驚きの発見・発掘なんてのは、もうありえないだろうと。
ところが、この人がいた。
たしかに存在は知っていた。しかし、ご多分にもれず、埋もれた怪奇小説の書き手くらいのイメージ以上のものはなかったわけで。
とんでもない不見識、勘違いであった。
九巻の全集は出ているから、まるきりの忘れ去られた人ではない。
けれども、没後三十年の全集は完全版とはいえない。そもそも第一期と銘打たれていたままで、後続は実現していないのだ。
プロレタリア文学史にその名前は記されていないし、大衆文学史にも載っていない(だろう)。『部落問題文芸・作品選集』には、代表作が二巻分あてられている。とはいえ、これでは際物あつかいに近いような気もする。全集の全巻解説は由良君美が書いていて、基本的にはすべて正論なのだが、そうした評価が広く浸透しているとは思えない。
手早くいえば、黒石研究はほとんど白紙だということ。
これはなかなか気をそそられる事柄ではないか。
黒石の『俺の自叙伝』の書き出しをひとつ。
《アレキサンドル・ワホウィッチは、俺の親爺だ。親爺は露西亜人だが、俺は国際的な居候だ。》
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