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近況1994年

近況1994年

思いたって日生劇場で『三文オペラ』を観、数日後、コンサート評を頼まれたのでビッグエッグでU2を観た。逆でなくて良かった。ブレヒトの芝居は退屈で退屈で。モノクロ・スティール写真に感じられた表現主義的なグロテスクさが、じっさいの舞台からは全く発散されてこなかったから。それにあの「劇場」にはどうも弱い。

U2のほうは上々。どうせスタジアム・コンサートなんだから。いろいろ思うことがあった。ビッグ・イベントの臨場感に満足していればいいわけで、曲は自分の記憶で再現して、聴いているような気になる二時間半だった。疲れたな。

明日からはリスナー三昧の生活になる? 思えばオトに飢えていた毎日であった。この一年ほど通勤電車でラップばかり聴くのが限られた音楽生活だった。どこか狂ってるよなこれ。おかげで前代未聞の多重人格小説が頭の中で虚しくエコーを響かせるのみで、少しも「書けずの森の書けず」だ。

『夕焼け探偵帖』が出ます。人並みに小説家デビューというところです。

日本推理作家協会会報1994.01

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