更新日記2004.04.15
さる月曜日は恒例の新聞休刊日だったが、号外が配達されてきてびっくりさせられた。元号が変わって以来初めてのことではないだろうか。人質解放の予告声 明がなされただけで、事態はまったく進展をみていなかったにもかかわらず、それ自体は華々しい号外だった。新聞もまた「金になるニュース」には敏感だ。
それから週のなかばにいたって、事態は進展するどころか、新たな被害者の名が追加された。
当事者でありながらまったく当事者感覚を持たずに評論家ふうのコメントを称える政府高官。そして彼らと、直接の関係者である人質家族とを遠巻きにした映 像を配信するテレビカメラ。おびただしいレポートがとびかうけれど、そのほとんどは繰り返しで、進展のないことの確認に消費される。ニュースの「商品価 値」は、残念ながら、刻々とダウンしていく。
情報収集と救出活動への迅速な対応に努める、という決まり文句。一定の機密事項はもちろんあるのだろう。しかし声明を出す為政者たちの表情からは、事態を正確に把握しているという知性も、事態に断固として立ち向かおうという気概も、ともども欠落しているように見える。
これが日本国民を代表する顔か。いや、日本国民の反応を集約した戸惑いの表情と見るなら、腹立ちは薄れるかもしれない。
イラクへの(われわれ日本人の)介入は、アメリカの戦略に引きずられた結果であるから、戦闘や(今回のような)非常事態にさいしてはアメリカが助けてく れる。だから日本政府は自国民を救出することはできない(その能力もないし、義務もない)。――首相らの本音はそのあたりにしかないのか。これでは、一方 でタカ派的極論が出てくるのも当然だという気分になる。
人質となった三人(今では五人)は自業自得だとする説も次第にふくれあがってくる。これは、「人道支援」政策によって私利私欲に走る為政者たちにとって は願ってもない「世論」だろう。何事も自己責任か。日本国を愛さない非国民は社会から脱落していって当然とみなされる。アメリカに追随しない者は排除され るという原理がどこまでも追いかけてくる。
時間は過ぎていくが見通しは暗い。
要約できるのは、次の二点だ。
一、事態は長期化するだろう。
二、人質はアメリカ側との交渉カードに使われる可能性もある。
要するに、二点とも、日本政府が当事者能力を備えていれば考えずに済まされる見通しだ。最悪の被害が予測されるのは、現地に駐留した自衛隊に対してだろう。
これは、アメリカによるイラク攻撃、イラク占領を支援して止まなかったことの帰結だ。最終的帰結とはいえないところが恐ろしい。国内がテロの脅威にさらされる可能性も話題には取り上げられている。しかしイラクで進行している事態について、われわれはあまりに「無力」だ。
新刊が出る。
『アメリカを読むミステリ100冊』
毎日新聞社 46判ソフトカバー 210P 1400円
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