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更新日記2013.02.24

更新日記2013.02.24

施設死
 ・山田実さん(仮名、享年七七)
 私が嘱託医を務めていた施設での出来事である。真夜中、入居者に異変が起きたとの電話があった。どうも亡くなっているらしいという。車を飛ばして行ってみると、山田さんは冷たくなっており、すでに死後硬直が手足に始まっていた。診ると右側頚部に赤黒い一本の筋状の圧迫痕があった。ベッドのマットとベッド柵との首を挟まれて窒息死したことが考えられた。職員に訊くと、「わかっちゃいましたか」と苦笑いを浮かべながら、そのような状態でベッドから落ちていたという答えが返ってきた。
 事故か自殺か、判断に迷うところである。警察を呼んだところで事故扱いにされるだけだろうと考えた。山田さんが死を欲していたことは事実であったし、何も事を荒立てる必要はないのである。老いの収容所から逃れるため、彼は死を選んだのかもしれない。あるいは、偶発的事故かもしれない。原因について詮索する必要はない。七七歳の死であったが、私は「老衰」と死亡診断書に記載したのであった。  (19p)

 さて日本では、この問題(安楽死ー自殺幇助)はどう扱われているだろうか。目立つのは患者さん、家族、医師などの関係者の立場が考慮されず、単純に殺人とみなす警察・法権力の存在である。彼等は自然死でさえも不作為の殺人と考えているように思われる。脳死状態に陥った患者さんにおいて人工呼吸を中止した場合、すなわち自発呼吸がなく回復の可能性がない医療状況に対して、警察が介入するのは非常識の極みといわざるを得ない。彼等は、脳死状態の人が人工呼吸によって無理矢理生かされた場合、脳がどう変化するかよく知るべきである。脳は壊死して溶解し始めており原形を留めていない。 (137p)

『在宅死のすすめ 生と死について考える14章』 網野皓之 幻冬舎ルネッサンス新書 2010.2

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