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更新日記2012.12.20

更新日記2012.12.20

夕刻、ドッグはペニーの家のカウチに寝転がったまま今日のスポーツ・ハイライトを見ながら寝入ってしまった。すっかり暗くなって目を覚ますと、画面には誰かの顔がうつっている。ニクソンだ。彼の声が響く。「そんなのはファシズムじゃないかと、泣き言を言ったり文句をつけるやつは必ずいる。だが親愛なるアメリカのみなさん、これが自由のためのファシズムならどうでしょう。私は……それを……支持します!」 広い会場につめかけた支持者たちの割れんばかりの拍手。レタリングの専門家にわざわざ書かせた小旗を振っている者もいる。ドッグは身を起こし、目をしばたたかせながらテレビの光をたよりにハッパを探し、半分になった残り物を見つけて火を点けた。
 ドッグを驚かせたのはニクソンの表情だ。それはソンチョからもらった偽二〇ドル札の、呆けたような表情(新種の幻覚剤でもきめたように、焦点の合わない目をしている)とまったく同じだった。さっそく確認すべく札入れから一枚取り出してまじまじと眺めた。間違いない。二つのニクソンは互いが互いのフォトコピーのようにそっくりだった。

LAヴァイス トマス・ピンチョン 栩木玲子+佐藤良明訳

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