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アドレス・アンノウン

アドレス・アンノウン

 どこかの依頼で書いて掲載されたのか、あるいはその下書きなのか。
 まったく思いだせない二点。2008年テキストの倉庫に安置されていた。

その一 近況
 守りの時代に入ってきたかなと、勝手な感想をいだいている。穴倉だ。細かい情勢判断のようなものは抜け落ちてきている。個人的にいえば、本格脱落(ごく単純な意味合いでの)は、どうにも修整のきかないレベルに達している。
 小栗虫太郎のように、わずか数年で本格探偵小説の定型と反定型とを、極端から極端へと走り抜けてしまった症例が遺されている。教訓というにはあまりに激しすぎる。小栗は特殊すぎて典型にはなりがたいかもしれないが、あの時期にしか出現しようのなかった書き手だろう。ジャンルを破壊するエッジすらも愉しげなモバイル・ツールでしかない現在。不幸はどちらにあるのか。
 五年越しの連載『夜の放浪者たち』が、やっと終わる。予定。


その二 ゴダール『ウィークエンド』
 若いころ入れあげていた作品で、思い出すとどこが気に入ったのか合点がいかず、現物を観直して確かめないと済まないようなものがある。忘れてしまえばそれまでだが、タイトルだけ記憶の隅に引っかかっていて、極私的には、不朽の名画みたいな特別のアーカイヴに安置されてしまう。
 ゴダールの『ウィークエンド』が、そういう作品だった。『ゴダールの探偵』という作品もあり、原作付きの『アルファヴィル』や『気狂いピエロ』などもあるが、この人は、ミステリ・マインドとは最も遠いところにいる作家だと思っていた。
 わざわざDVDを買い漁るほどの熱心さもなく、機会を逸していたが、最近、無料でゲットして、約四十年ぶりの「再会」を果たした。いや、四十年たっても新鮮であった。週末の田舎道のえんえんたる渋滞、交通事故のジャンクなシーン。やはり、自分の好みは歴然とフィルムに刻みつけられていた。スペクタクルにしてキッチュ。こういうゴダールは以降のゴダールから消えていったのだな、と納得。

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