更新日記2012.12.11
労働者たちの議論は臆病すぎるし、賃金問題にたいする関心がなみはずれて強いものですからねと彼は言った。彼らは粗暴な顔をした現実主義者で、自分らの手にとどかない余暇の産物である几帳面さというものを憤っているような気がした。これから何世紀のあいだダブリンに社会革命が起こることはまずありますまいよ、と彼は彼女に言った。
彼女は、なぜそういう考えを書いてごらんになりませんのとたずねた。なんのためにです、と彼は念入りに嘲笑の響きをこめてたずねかえした。六十秒のあいださえ筋道をたてて考える力のない空虚な美文書きとはりあうためにでしょうか? 道徳は警察まかせ、芸術は興行師まかせにしておく鈍感な中産階級の批評をあまんじて受けるためにでしょうか?
『ダブリンの市民』ジェームズ・ジョイス 高松雄一訳
Share this content:
コメントを送信