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近況 ある限界数値について

近況 ある限界数値について


 巷では「9.11」十年が話題になった。
 私事に引き寄せれば、奇病でひっくり返ってから十年を通過したことになる。
 回復当初は、あと十年もてば御の字か、と予測を立てたものだが、今は、いちど死に損なうと存外しぶとく生き延びるかもしれないと思えたりする
 ヘモグロビンA1c(エー・ワン・シー)をご存知だろうか。
 この数値は5.8から6.0くらいが敷域で、これ以上は〈病人〉と判定される。
 ぶっ倒れた時は、この数値が10.0を超えていた。いわゆる血液ドロドロという状態。退院後も、しつこく血糖降下剤を呑まされ、あの急激な墜落感には参ったマイッタものだ。
 正常値まで下がっていたこの数値がまた上昇してきて(昨年は6.6のゾロ目)、この伸び率だと今年は某国の国債金利の数値も上回りそうだった(人間デフォルト)ので、厭世観に囚われつづけた。
 食生活はかなり〈病人メニュー〉になっていたが、さらに改革を迫られる。
 高タンパク食品を抑えて炭水化物主体にした素人考えがアダになったのか。つまり、炭水化物が糖に転化しやすかったらしい。そこで、白米、食パン、うどんなどを食する習慣を廃した。
 玄米、ライ麦パン、そばを主流にした。
 白く精製した穀類こそ高血糖の元凶であるという説を信じたわけだ。
 他には、グァバ葉を煮出した茶を常用することにした。最初は鼻をつまんで呑んでいたが、なんとか慣れることができた。
 それで、今年の検査結果がどうだったか、というと。
 甲斐あって、やや減という数値を勝ち取った。
 基準としては〈まだ病人〉を脱していないが、暫減してくれたことに、主観的な満足をおぼえる今日この頃である。


日本推理作家協会会報2012.01

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