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わがキンドル作家奮戦記 覚書その三

わがキンドル作家奮戦記 覚書その三

わがキンドル作家奮戦記 覚書その三
 ようやく『空中ブランコに乗る子供たち』のデジタル版が完成。
 何点かの自著デジタル化を計画したさい、いちばんに念頭にあったのは、この本だ。その意味では、本命の一仕事を終えた、という感慨がある。
 先行してデジタル化した何冊かは、つまり、この本のための「練習台」だったと思えないこともない。たんにテキストを ePub 化するだけでなく、プラス・アルファの作業がずいぶんと付随していた。

 その第一点は、中味の各章相互のリンクだ。『空中ブランコに乗る子供たち』は、6部立ての、短い章111章から構成されている。ページにしたがって順に読むのではなく、各章の関連に注意して横断的に読むことを求める仕様となっていた。こちらを読み、あちらを開く、といった手順で、ジャンプを繰り返しながら、本のなかに入っていく――。
 そういうシグナルをつけ、特殊な読み方を薦めるものだった。当然のことながら、構成の工夫についての反応は、ごく鈍かった。
 のみならず、困ったことに、出来上がった本は、ずいぶんと読みにくく、読者を置いてけぼりするような印象が強かった。
 著者として反省する点はいろいろあったが、ひとつにこれは、活字本というフォームに原因するのではないか、とも思えた。しかし、そう結論するのは責任転嫁のようでもある。失敗作の負け惜しみだといわれれば、認めざるをえなかった。どうも不完全燃焼で、不完全燃焼のまま、ぐずぐずと数十年を経てしまった。
 しかし、まあ今なら、こういえそうだ――。『空中ブランコに乗る子供たち』が求める横断的な読み方は、デジタル本のフォームにより適合しているのではないか、と。

 もう一点は、必要に応じてハイパーリンクをつけ、必要なデータにインターネットを介して、一発でアプローチできるようにした。これも『空中ブランコに乗る子供たち』という本の性格にぴったりくる仕様だ。
 最近ますます顕著になる傾向だが、本によっては多くの注釈&説明を要求される。「初歩的な読者」なるもののために、基本的におさえねばならないデータがふくらむ。そのために、本文までも説明や解説に多くの部分をさかねばならない事態になる。
 脚注ばかり肥大する書物というのは、書き手の意気をひどく阻喪させる。この「必要だけれど、補助的なデータ」は、ハイパーリンクによって解決する。検索結果に直接つながるわけだから、速い。しかも、リンク情報がコピーされるだけなので、テキストの本体はスリムなままだ。
 アウトソーシングによって、デジタル本は巨大なデータ容量を保証されるわけだ。
 ハイパーリンクの至便性は、ホームページやブログやツイッターやSNSで普及してきているから、さして珍しいテクニックでもない。デジタル本に活用するのは、たんにその延長だといえる。自慢できることでもない。
 しかし、ここまで、何冊かデジタル化してきた個人的感想でいえば、なんとなく「アナログをデジタルに変換しているだけ」のような虚しさが、作業につきまとわないでもなかった。「活字本で読めるのなら、それでいいだろ?」という反問に対抗できるような強さがないのだ。
 その点、今回の『空中ブランコに乗る子供たち』はちがう。デジタル版がもっともふさわしい作品に、最適のフォームをつくることができた。
 コンテンツは変わらないが、そのコンテンツがデジタル本という最適の「環境」のなかで再度リニューアルされたのだ。

 データ変換には、前回と同じく Romancer を利用した。一次データは Word でつくった。 Word ファイル作成にさいして、3つの方法を試してみた。
 ① PDF を Adobe Reader でひらいて、クリップボードにコピー。それから Word で新規ファイルを起動し、貼り付ける。
 ② Adobe Acrobat Ⅺ trial で、PDF ファイルを Word に書き出す。
 どちらも、編集作業でつまずいて、途中で断念。②は、これでイケルと思ったんだが。
 まあ、どちらも、相性が悪いんでしょう。
 仕方がないので、前回と同じ行程にする。
 ③ PDF を、画像イメージに変換し、出来上がった BMP ファイルを、読取革命に認識させる。この方法で精製したテキスト・データが、いちばん楽に編集できた次第。
  Word にも、だいぶ慣れてきた。
 目次がかんたんなものであれば、 Word ファイルをダイレクトのまま Kindle にアップロードする手もありか。
 これは次の機会に。


 1980年代のただ中に書かれ、不可思議な予言性をおびたポストモダン文化論を、デジタル版で再生リニューアルする。
 豊かな社会の頂点の底に進行する格差の前ぶれ、狂乱する性風俗、ゲーム的世界とリアル感の喪失、暴かれる食品汚染の実態、生活空間の効率的再編成の罠、そして史上最悪(と当時はいわれた)原発メルトダウン事故……。
 崩落していく世界にあって、負債を押しつけられる「弱者たち」の群れは、いかにして自己を護るか。
 6個のパーツと、111の短い断章によって構成された本書は、なによりデジタル本というフォームに適合する。
 コンテンツは読まれるだけではなく、各章パーツの相互連関に注意を向け、適宜、各章をジャンプし参照することをとおして、いっそう明確なイメージに実を結ぶだろう。
 デジタル本ならではの横断的リンクを可能にした驚きの「一冊」。

2015.02.17

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