更新日記2004.09.13 来年は安吾没後五十年
『不連続殺人事件』イヴニングスター社刊、昭和23年12月。表紙、扉、口絵。装丁は松野一夫。珍しくコレクターズ・アイテムとなった一冊。 紙質はいかにも粗悪だが、書物としての体裁はしっかり保たれている。
没後五十年には、にぎやかな催しが予定されているんだろう。
桐生市が何か企画していると聞いた。
こちらとしても『安吾探偵控』の第三作を間に合わせたい。
今のところ、時代も昭和25年前後にするか28年あたりにするか。舞台は伊東市にするか桐生市にするか、迷っている段階。
それとはまったく別個に「安吾長編小説論」というのを書きたい。
安吾の野心的な長編小説は、ことごとく短い期間に集中して書かれ、失速し、中絶している。その挫折は作家の側に甚大な精神的ダメージを与えた。『吹雪物 語』には、一年余の懶惰の暮らしがあった。『花妖』と『復員殺人事件』に関しては、直接的な反動はなかったが、『火』には、世の安吾イメージを決定づける ような錯乱のエピソードがつながっている。『クラクラ日記』などに報告された、青鬼の所業と精神病院入院だ。
未完の挫折や暴力的錯乱に人の目は行きやすい。しかし野心の壮大さにこそ、安吾の本質がある。
安吾の精髄は短編やエッセイにあり、というのが定説だ。
気の毒な安吾。
俗説の誤解は叩き壊さねばならない。
桐生市が何か企画していると聞いた。
こちらとしても『安吾探偵控』の第三作を間に合わせたい。
今のところ、時代も昭和25年前後にするか28年あたりにするか。舞台は伊東市にするか桐生市にするか、迷っている段階。
それとはまったく別個に「安吾長編小説論」というのを書きたい。
安吾の野心的な長編小説は、ことごとく短い期間に集中して書かれ、失速し、中絶している。その挫折は作家の側に甚大な精神的ダメージを与えた。『吹雪物 語』には、一年余の懶惰の暮らしがあった。『花妖』と『復員殺人事件』に関しては、直接的な反動はなかったが、『火』には、世の安吾イメージを決定づける ような錯乱のエピソードがつながっている。『クラクラ日記』などに報告された、青鬼の所業と精神病院入院だ。
未完の挫折や暴力的錯乱に人の目は行きやすい。しかし野心の壮大さにこそ、安吾の本質がある。
安吾の精髄は短編やエッセイにあり、というのが定説だ。
気の毒な安吾。
俗説の誤解は叩き壊さねばならない。
『不連続殺人事件』イヴニングスター社刊、昭和23年12月。珍しくコレクターズ・アイテムとなった一冊。
紙質はいかにも粗悪だが、書物としての体裁はしっかり保たれている。
だがこの本の唯一の値打ち(?)は別にある。
さて画像をトクとご覧あれ。
このようにシルシがつけてあるのだ。第一章、第二章で人物が出揃うところ。
なんとなんと。それも赤エンピツだ。
『不連続殺人事件』は、人物が団子状になっていて、人によっては読みづらい。みんな俗悪千万な奴ばっかりなので、 かえって区別ができなくなるのだ。映画化して、キャスティングで差異をつけようとすると、だれが観たって犯人役はこの人しかいないという個性の配役になる から、逆に具合が悪い。
だからシルシをつけたんだろうが……。
のみならず、このテキストには。ほうぼうに書き込みがあるのだ。赤エンピツで。
曰く、 この手がかりは要注意、とか。こいつが犯人だ間違いない、とか。やりたい放題である。目がちらちらして、とても読み進められるものではない。
『不連続殺 人事件』は、別に収集にこれ努めたわけでもないのに、書庫には五種類くらいの異本がある。再読にも不自由はない。けれどね。もしこの初刊本のテキストしか 残っていなくて、もし、これで最後まで読み通さねばならなかったら……と思うと。
赤エンピツの書き込みと注釈を入れた「前の持ち主」にたいして絶対に殺 意が湧いてきただろうな。
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