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更新日記2004.08.28 幸せに生きることは最高の復讐だ 

更新日記2004.08.28 幸せに生きることは最高の復讐だ 

カルヴィン・トムキンズの Living Well is the Best Revenge の文庫版が出たので、びっくりした。やあ、こんなものが出るんだ。
セピア色に褪色した「過ぎ去った、かつてあまりにも神々しかったロマンスの日々」のアルバムが四分の一を占める。文庫で持ち歩くのが最適の、ごく薄っぺらい本だ。
生き方を理不尽にねじ曲げてくる本はだれにでもあるものだが、出会いの時期によっては、さして客観的に優れていない書物でも強烈な刻印を残す。本を読むとは、基本的にいって、自分の読みたいことを主観的に反映させる行為だから。戻り途を断ってしまうところがある。
どこかに一度(いや、もう二度も三度もになるか)書いたことだが、ゼルダ・フィッツジェラルドの『こわれる』とナンシー・ミルフォードの『ゼルダ 愛と狂気の生涯』が、その悪縁の本にあたる。1974年。それを読んで以来、マーフィ夫妻の像は、わたしのなかで、ジャズ・エイジの木霊に消えていった人たちへの反語として屹立していたようだ。スコット・フィッツジェラルドが彼らをモデルにして書いたという『テンダー・イズ・ザ・ナイト』も、後年、探しだして読んだけれど、あまり感心しなかった。だいたいフィッツジェラルドの長編は、未完に終わった『ラスト・タイクーン』以外ことごとくわたしには面白くない。
マーフィ夫妻はいわば時代のキーパースンだが、その重要さは表舞台に脚光を浴びるような性格のものではない。いつも脚注に引き合いに出されるたぐいのコメンテイターなのだ。ゴーン・イズ・ザ・ロマンスの――。
だから彼らを主役として描いたトムキンズの本は、未見のままわたしのなかで、すでに何度となく読み切ってしまったように錯覚されていたのだ。
それが文庫本になった。
写真は、スコットとゼルダの写真集『ロマンティック・エゴイスト』のカバー。

 

カルヴィン・トムキンズの Living Well is the Best Revenge の文庫版が出たので、びっくりした。
本のタイトルは「優雅な生活が最高の復讐である」。原タイトルで記したいのは、リヴィング・ウェルにぴったりあてはまる日本語を見つけられないと思うからだ。
まず最初の翻訳が出たときにも、正直、唖然とした。1984年5月、リブロポート。写真。翻訳など出ることはないだろうと諦めていた本だった。
戸田ツトムの造本。オレンジとイエロウの二色を使った本文の粗悪な用紙。まさに選ばれた者にのみ届けたいといった体裁の書物だった。

 

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