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更新日記2004.08.01

更新日記2004.08.01

昨日、「文学史を読みかえる会」に顔を出す。久しぶりなので、様子がよくわからない。最終号のプランが進んでいると思っていたら、まだその準備段階だっ た。ポストコロニアル批評による『雪国』の読解というテーマについて少し喋った。特別の発表という形でもなかったが、好評をもって迎えられたので、心を強 くした。夕方から神保町の台湾料理屋で宴会。三次会は自粛した。

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 某日、都立M高校前の舗道をチャリ通行して いたオレは、いきなり尖ったもので後頭部をこずかれて前につんのめった。痛みはともかく驚きで我を喪った。短い足がアスファルトに支えを求めて、空しくト ントントンと乱れたステップを踏む。とっさにハンドルを左側にきる。上体が投げ出される。ツツジか何かの植えこみの上にオレは頭から突っこんでいった。
ふりむきかけた視界に急上昇していく一羽のカラスが映る。あいつだ。眼のなかが真っ黒に染まった。
気のきいた大道パフォーマンスに行き合わせたとでも勘違いしたらしい高校生が拍手を送ってくる。近くの病院に通う年金生活者たちの反応はもっと辛辣だっ た。取り扱い注意の医療廃棄物でもながめるような視線が何セットも突き刺さる。まあいい。同情されなかったことをせめてもの救いだとしておこう。
我が家の豚児が熱血の高校球児に変身するこの夏。応援などに出かけようと殊勝な心持ちになったのが根底的な間違いだったか。
痛みはあちこちに生じているので、後頭部のものはそれほど気にならない。攻撃は、あのシャベルみたいなクチバシではなく、後ろ足の爪だったらしい。オレの頭をヘリポートの発着基地がわりにしてジャンプしやがったのだ。
べっちょりした糞尿弾の直撃を受けたのが一回。不埒な後ろ足のキックを受けたのがこれで二回目。とても人に自慢できる話じゃない。
頭を指でさぐる。幸い血は付着してこない。外傷は負わずに済んだようだ。しかし――。
直前に閃いた小説のアイデアがどこかに霧散していた。
狼狽した。狼狽しまくった。
アイデアは閃くのと同じだけ消えていくものだ――という経験則にたいして未だに謙虚になれないオレがいる。消えてしまうのが惜しい。それにだ。前にカラ スにやられて悪性の脳炎を発病して以来、ほとんどアイデア霧散という事態になったことがない。つまり、閃きもしないから消えることもないという情けない状 態だった。脳炎は死にいたる病いである。武田麟太郎は初発の処置を誤ったために若死にしたではないか。オレのも拾ったイノチさ。かわりにアイデアが枯れ果 てた――ってお粗末だ。
そのアイデアが閃いて……。カラスのワンギリ・キックによってあっという間に消え去ったのだ。
惜しい。
口惜しい。
生来の貧乏性が最近ますます嵩じているオレとしては、この体験を何とか活用できないかと必死で頭脳をめぐらせたのである。ネタ切れをネタにして小説を書くのは、一種の流行り病いじゃないか。昨日今日に始まった新奇なモードでもないし。
これだ。これでいこう。
オレは、ポーが長詩The Ravenを書いたメカニズムを、正しく理解したように思った。カラスは「アホー」などと散文的に吠えたりしない。たしかにネヴァーモアと嘲ってくるのだ。
Nevermore もはやない またとなけめ

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以上が二百字小説「白いカラスのバラード」(新規更新ページ参照)をつくったきっかけの体験。

というのはもちろんフィクションである。字数を三倍にしたヴァリアントをこしらえただけ。
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というのもまた……。

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そういうわけで掲示板で実験した投稿小説の成果をアップしてみた。

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最近、頻度を増している電話ストーカーの手口。
「ノザキ先生でいらっしゃいますか。ワタクシ○○の○○でございます。ごぶさたしております」
最初は、原稿依頼かと思ってこちらはついつい正直に対応する。同じ声、同じ口調だから、明らかに同じ人物なんだが、○○という所属と○○の名前はその都 度ちがう。続いてどこかのパーティで名刺交換をさせていただきまして……などと、口上がごちゃごちゃと伸びてくる。――こういう曖昧な話だと心当たりは必 ずあるものだ。というか名刺交換のみに終わる相手の方のことはたいてい忘れてしまうので、「覚えていただいているでしょうか」と言われると、つい思い出さ ないと申しわけない気分になるわけだ。そういう心理をついてくる手口はうまいとは思うが、そこから何やらのセールストークになると、こちらの頭がついてい かないせいもあり、肝心の用件というのがよくわからない。
この人物が何遍も掛けてくる。こちらも正体の見当がついたから相手をしなくなったのだけれど、それでも「ワタクシ○○の○○です。センセイ、覚えていた だいているでしょうか」と掛かってくる。困ったことに、電話の声と口調をすっかりインプットさせられてしまったから、しっかりと「覚えていただいている」 のだ。鮮度もかなり薄れた。またあんたなの、いい加減にしてくれよ。と、無粋な対応になるのがいくらか残念である。

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