更新日記2004.06.15
島尾敏雄『日の移ろい』(正・続)を再読する。適切な感想ではないかもしれないが、心が落ち着く。鎮められる。
島尾の夢描写のリアリティ、現実描写の夢幻性。
移ろう日々をたどりながら、まったく時間の流れに従わない世界。それははたして救いでもあるのだろうか。島尾の信仰とは無縁のものだとは思うが。
精神の取り散らかりようとは別個に、ひとつのテーマがおぼろげに浮かんでくる。追い求めたいものとはかけ離れているようでもあり、積極的になりきれないが……。
BS2の週刊ブックレビューの録画は無事終わった。
無事に済んだとはいえ、会場に到着するのが遅れ、スタッフに迷惑をかけてしまった。充分に余裕をみたつもりが、そういう結果になる。渋谷から歩けばよ かったのに、下北沢で小田急乗り換えのコースを取って代々木八幡駅で降りたのが誤算だった。小田急の各停のつながりがすこぶる悪かったので焦ったうえに、 駅から歩き出して方角を完璧に間違えた。
初めての場所(初めてのコース)をめざすと必ず道に迷う。必ず迷うんである。これまで数限りなく繰り返してきたことを、暗示にでもかかったように、この日にもやってしまった。
本番の収録は、予想したよりもはるかに簡単に済んだ。それはそうだ。シナリオも段取りもきちんと整っているハコに、出演者が収まればいいのだから。だれにでもこなせそうな仕事だと感じる。
13日朝、放映を観た。
あらためていろいろ感想も出てくるが、とりあえずテレビに映る自分を観ることは不愉快だ。
今回の出演メンバーの組合せは、もちろん偶然によるが、ライヴというのはまた不思議な体験だ。打ち合わせの段階での雑談や、リハーサルなんかも含めて、相手が本を選んだスタンスや読み方、大げさにいえば世界観・人生観がはっきり見えてくる。
初対面でないのは柏木博さんだけだが、柏木さんともゆっくり言葉を交わすのは初めてのようなものだった。もう一人の出演者、藤田香織さ んとも、他のスタッフとも初めて。「書評っていい仕事ですよね」と柏木さんは盛んに言う。藤田さんもほんとうに好きな世界に浸りきっている様子だ。ひるが えって、わたしの場合は、(画面では)最近の鬱屈が顔にも身体にもすっかり滲み出ているみたいで、正視に耐えられない。少しも書評という仕事を楽しんでい ない。万事においてそうかも……。
読みたい本、オススメ本とは、その人物の宿命のワンショットでもある。人はだれしも自分が書きたいと潜在意識で望んでいる本を読みたいと欲求するのだろう。書きたい(と、ひそかに願う)ことを正確に言い当てられたとき、人はその本に心を打たれる。
一冊の本を選ぶことは、つまるところ己れの宿命の発見でもある。番組の面白さとは、書評本を素材にした個性の品評会にあるのだろう。本と人とのコラボレーション。……しかし、その自分版を観たって不愉快なだけだと納得した。
某誌の某注文原稿。締切はまだまだ先だが、もうひとつ気の重い仕事だと思っていたところ、ある朝、目覚めまでの短いあいだの一瞬に閃いた。イメージが爆 ぜ、あるべき位置に次つぎと嵌まっていって、ほとんど完成稿となって明瞭に見えた。こういうさいのイメージの走り具合は驚くほどのスピードだ。
消えてしまわないうちに、起きてメモをとる。するとまったく面白くない。スピードを再現するのは不可能。言葉と言葉を埋めるものが、いつもの陳腐な思考でしかなく、書けば書くほどブレーキになる。
至上に高みに舞い上がった想念をまたしても取り逃がしてしまった。
そんなうまくいくわけないよな。
Share this content:
コメントを送信