更新日記2004.06.01
トレヴェニアンの新作『ワイオミングの惨劇』が凄い。
伝統的な、ということは非常に古臭いウェスタン小説なんであるが、この人の手にかかるとかくも不可思議な世界に変容してしまうものか。暴力アクション小 説を書くことによって暴力を否定し、西欧中枢に属する大衆読み物に「辺境最深部から出撃せよ」のメッセージを隠す。その鮮やかな手並みは、やはりトレヴェ ニアンだ。
この何ともおかしな世界に接していると、思い出されるのは、ラース・フォン・トリアーの映画だ。全編セピア色のヴェールをかけた『エレメント・オブ・クライム』や、モノクロ主体のフィルムにパート・カラーで異化効果を狙った『ヨーロッパ』も忘れがたいが、最高傑作はテレビ向けシリーズの『キングダム』だ。ある総合病院を舞台にして、さまざまなエピソード群を積み重ねていく奇妙な世界。『ツイン・ピークス』のかぎりない無意味さと『ER』や『Xファイル』に使われそうな素材のナマっぽい展開と。
これ以上退屈な映画はゴダールしかあるまいと思わせながら、なぜか観ずにはいられない。危険な中毒性を持ったシリーズだった。また『大菩薩峠』のように長いのだ。
大病院の地下(だったと思う)のだれも知らないシェルターのような部屋で、都市伝説みたいな話題でぺちゃくちゃ盛り上がっている男の子と女の子のエピソードとか、生まれた時から顔だけ大人で一ヶ月くらいのうちにどんどん成長して病室に収まらなくなってしまう赤ん坊(怪優ウド・キアが演ずる)の話とか……。
トリアーはデンマーク人、トレヴェニアンはスペインのバスク在住。
意味を見つけようとすれば、それなりにあるんだろう。
bs-hiで「大菩薩峠 果てしなき旅の物語」を観る。常識を打ち破って長い。なんとなんと、五時間二〇分もあった。
前半は朝倉喬司が出ずっぱりで、国定忠治や高橋お伝を追いかけている。さすが『大菩薩峠』にちなんだ番組である。少々関連性か薄かろう が、貪欲に呑みこんでしまう。民衆蜂起の見果てぬ夢を追う朝倉フォークロア史観が全開である。テレビでこんな不埒なメッセージを観るとは意外な収穫であっ た。
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