更新日記2004.04.01
ピーター・ユスチノフの追悼を気取って『ナイル殺人事件』を観た。クリスティー映画は、スターシステムの観光映画が最高だ。この豪華さが何物にも変えがたい。
人物はリアリズムの人間というより、謎解きと騙しのための巧妙な記号だから。スターの放つオーラと役割の空疎さが不思議とマッチする。生身の人間ではな いけれど斬れば血が出る。血の通った人間というのではなく、血はお約束だから「冷たく流れる」にすぎない。ミステリの登場人物たちはあまりに人間そっくり なので、勘違いした識者が「やはりパズラーは人間が描けていない」と怒りだす。しかし違うのだ。クリスティー王国の人物は、はじめから人間ではないのだか ら人間として描かれる必要もないわけ。特殊ルールの元でのみ、人間らしければいい。だから彼らの死体からは血が流れる。血糊だって、舞台用、映画用、小説 用と、いろいろあって当然だ。
こうした人間もどきを演じるのにスターほど相応しい存在はいない。一人ずつの見せ場は少なくとも、贅沢で濃密な時間を過ごすことができる。
ユスチノフのポワロは、さしずめ片岡千恵蔵の机龍之助みたいなものか。体格的にかなりはみ出しているが役そのものになりきっている。
安吾の『不連続殺人事件』を思い出しながら、楽しく観終わったことであった。
更新は、今月刊の『アメリカを読むミステリ100冊』(まだ仮題)の「あとがき」部分。これはページ調整の加減(余裕ができれば見開きで押しこむ)で、載せられないかもしれない。その場合は、当HPが独占公開(笑い)となる。
e-novelsサイトに黄昏ホテル・シリーズ『鏡の中へ』がアップされた。
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