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わたしの不要物

わたしの不要物

わたしの最近の不要物は――ワープロである。
不要物といっても、不要物でありながら、毎日手放せない。十年ほど連れ添って、じゃない、使わせてもらって、丈夫で長持ちが取り柄の頼もしい古女房みたいなやつだ(ワープロは女性名詞か?)。
コンピュータは、時どきぶっ壊れ、買い換えを余儀なくされる。だからマシーンへの愛着なんかおきない。レンタル感覚だ。個人リースの格安なものさえあれば充分ということ。
コンピュータにもいくつかのエディターソフトを入れているので、執筆環境は整っている。しかし、何か、使い勝手が悪いわけでもないのに、あまり活用していない。いってみれば、外で不倫をいたしておるような後ろめたさにとらわれたりするのである。
だから今日もワープロを使う。雨にもマケズ風にもマケズ。キーボードはいくらか硬くて重いが我慢する。もともとブラインドタッチの早打ちをマスターしているわけでもないし、それでも不自由はない。
だがそろそろ寿命が来るだろう。専用のフロッピーディスクなどの周辺用具はすでに手に入らない。マシーン本体も、要するに、骨董品。これが壊れた時が我 がワープロ時代の終末なのだとの覚悟はある(といって中古品を捜すかもしれないけれど)。だから、身体では必需品として求めながら、心ではすでに不要物と して無情に突き放すようにしているのだ。やがて来るに違いない訣れを愁嘆場にはしたくないから。

日本推理作家協会会報 2004.2

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