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更新日記2003.12.16

更新日記2003.12.16

パトリシア・ハイスミス『死者と踊るリプリー』の エピグラフに、インティファーダやクルディスタンへの共感が記されている。かなり唐突な印象がある。彼女の作品にはパレスチナなど被抑圧民族への連帯意志 が少しでもあったろうか。うかつなことにそうした観点で読んだことは一度もなかった。リプリー・シリーズの最後を飾るこの作品は、ハイスミスの白鳥の歌と もいうべき傑作だが、やはり作者の政治性を探る材料はまったくないといっていい。
そういえばハイスミスの生身を伝える情報などはほとんど知らない。この作品でも「リプリーは私だ」という交感が濃厚に伝わってくるから、それで充分だとも思う。彼女は『泥棒日記』の作者とどこかで交差していたのだろうか。

某カルチャースクールの生徒氏有志から『BEクリスマス殺人事件』という合作ミステリを贈呈された。『アノニマス』でモデルにされたことに対する返礼(逆襲)である由。あまり有り難くないクリスマス・プレゼントだが、慎んで拝受しておく。楽屋落ちとしては場外乱闘にもつれこんだということになるのだろうか。あくまで楽屋落ちだが。
『アノニマス』にはいくつかのヴァージョンがあるのだが、逆襲本は旧モデルの最初期プランにかなり近似しているところが面白かった。ホームページで公開 できればいいかもしれない。輪廻のテーマに踏みこんではいない健全さは、まあ、救いだろう。被害者がむくむくと起き上がるというドンデン返しがあっても良 かったような……。と、これは個人的な感想。
しゃあない。ドンデン返しは自分でつけるか。

(以下)
警告ブーッ。『BEクリスマス殺人事件』を知らない人は読んでも何のことやらわからないので悪しからず。

最終章 事件未解決
(情景一部省略 文体は覗木毒助タッチで)
 講師はその小冊子を読み終わった。
ぼくはサングラスを外して、おもむろに一同の唖然とする顔つきを一つひとつ見つめた。もちろんサングラスの下にもサングラスをしっかりかけているので、マスクド&アノニマスの阿呆面はそのまま。
さあ、諸君。座興の時間もこれまでだ。
こいつら、褒めてほしいのかね。毒をもって毒を制するとは少しは頭を使ったな、とか。口火をひらきながら、この連中の弱みをつく論点を三通りほど組み立 てる。毒が過ぎたのだろうか。一抹の悲哀がぼくの胸を吹き抜ける。いや、相手によっては不足してるってこともありうるぞ。全員みな殺しの猛毒なんて存在し ないものな。有志は六名もいる。調合の加減を誤った? 半分くらい生き残ったのは大いなる誤算だ。
おまけに、この小冊子。合作だ。B6版で12Pある。
ぼくの歓心を引きたいのか。
あるいは小心なぼくを傷つけようというのか。
甘いよ。甘いぜ。ぼくは言った。きみたちの実力はこの講師が充分に承知しているぞ。
あれ。承知しているぞと発音したつもりで、ぼくはそれが「ショーリしれるるろ」といった不細工な発音にしかなっていないことに気づいた。おかしいな。舌のしびれ。喉が熱い。これは。
「先生」だれかが言った。
だれだかわからない。セリエントのイラストの顔をしている。――みんなそうだ。
「ページは何ページありましたか」
「なんかいページをめくりましたか」
12P。十二回。十二段階の毒。
返事をしようとするが声が出ない。
気づいた。手遅れだ。みんなから丁寧に、この場で読んでくださいと言われた。ほとんど哀願せんばかりに。そういう意味だったか。ぼくはページをめくると き、指を舐めるクセがある。舐めては本を読む。だれからも嫌がられたクセだけど、ついに治せなかった。いや、これでもう……。
世界が白く濁ってきた。
ハッピー・クリスマス。

(後注)これはだれかのトリックのぱくり。だれの何という作品だったかもすっかり忘れているので、盗用のお詫びができません。

 

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