更新日記2003.12.01
笠原和夫の遺著『映画はやくざなり』(新潮社)を読む。
遅ればせながら『キューブリック全書――コンプリート・キューブリック』(フィルムアート社)を横に置いてながめている。こんな有り難い本は読まないかもしれないが。
他に、足立正生『映画/革命』(河出書房新社)をしっかり読んだ。これにはいろいろ思うことがあって別稿にした。
笠原の本には、シナリオ作法まで入っている。こちらが教えているミステリ創作法とまったく変わらないので驚いた。驚くこともないか。
脚本執筆の前段階として、次の七つの行程があげられている。120P
・コンセプトの検討
・テーマの設定
・ハンティング 取材と資料蒐集
・キャラクターの創造
・ストラクチャー 人物関係表
・コンストラクション 事件の配列
・プロット作り
ミステリ創作でも常にメソッドを優先的に教えている。
とはいいながら。
自分で書くときはこれが実行できたことがない。今もいくつかの作品を同時進行しているけれど、作法通りにはまったく進んでいない。自分で書いたマニュア ル本が自分のために役立たない(?)。他人に教える一般的な創作法はたしかにあるんではあるが、それを自分で実現できるかどうかは別問題のようで。
笠原は『やくざの墓場 くちなしの花』を、自分のシナリオ作品として唯一観ていない、と書いている。これはほんとうだろうか、と思ってし まう。《やくざ映画が本来は避けて通れないのにも拘らず、みんなが眼を瞑ってきた「在日」問題を扱っていた》作品。わたしの記憶でも、この問題にコミット したやくざ映画はごく少ないし、困ったことに問題性に立ち向かうほど失敗作になってしまうという傾向があった。
『やくざの墓場 くちなしの花』もどうということのない作品で、印象はすぐに薄れてしまった。シリーズ前作の『仁義の墓場』の印象があまりに強烈だったこと、ヒット曲に便乗した歌謡映画でもあったことからも、割り引かれたようだ。憶えているのは、梶芽衣子が日本海岸をどこまでも走っていく(玄海灘に向けて!)シーンだけ。これとても正確な再現なのかどうかは、心許ない。
デニス・ルヘインの新作『シャッター・アイランド』を読んだ。
まさにぶっ飛んだ。
これは――。
ひょっとして――。
半世紀に一発の怪作じゃないか。
解決編、袋綴じ、だそうで。
その値打ち、二百パーセント。
版元よりゲラを送っていただいたのだが、袋綴じ部分が別送になっている(ウソ)念の入れよう。
あまり好みの作家とはいいがたかったけれど、今回は脱帽。おそれいりました。
オフィシャルな書評は別のところで。
しかしね。アレを三人称叙述で書いちまうとは……。ほんとにまいった。
しばし呆然として暮れゆく二〇〇三年の末であった。――まだ早いか。
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