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更新日記2001.10.30

更新日記2001.10.30

坂口安吾小林秀雄との対談を読む。
まったくのところ、酔っぱらっての放談に終始しているのだが、名勝負の記録であることは変わらない。前になんどか読んだおぼえはある。しかし新鮮で深みと刺激にみちている。戦争という日本近代の頂上を生き延びた二人の文学者が互いを敵のように難詰しながらも、そこに己れの宿命のような鏡を見いだしている。彼らの応酬は、往復書簡といったかたちで残されていても不思議はないのだけれど、じっさいには、安吾の側からの小林批判のエッセイ「教祖の文学」一編があるのみだ。
これについては対談でも小林がふれている。徹底して攻撃批判を受けた小林に感情的な遺恨が残ったとまわりはおもんばかっているが、小林は不快感などないと表明している。むしろ小林は、安吾が小林の戦争責任を非難しながらも(それに仮託するかたちで)、自らを語っているという安吾文学の独特の秘密について注意を向けている。安吾は他人を論評するというより、自らの戦争責任について語ったのではなかったか――。こうした理解を安吾にたいして示したのは、おそらく小林秀雄だけだろう。
結局、安吾は小林の何を(つまり、己れの何を、ということだ)許せなかったのか。二人の親密度は、わかりあうという意味では奇妙なほど近く、あらかじめ決裂していたという意味では絶望的なほど遠かった。小林ははますます文学から離れ、安吾はジャーナリズムの寵児になるという逆説的な仕方で文学的散華を遂げていったのだ。
対談はそうした互いの未来を予言するかのような言葉すら随所に散りばめている。小林が達観もしくは諦観したすべてを安吾は拒絶した。拒絶の激しさの先にはイノチガケの自己破壊しかなかったのだし、そのことを二人はだれよりも深く了解していたのだろう。

『シークレット・ヒストリー』ドナ・タートの第二作が出るという。ほぼ十年ぶりのことだ。『シークレット・ヒストリー』は本国で百万部も売れたそうだ。日本ではさして評判にもならなかったので、不思議だった。第二作は、どうだろうか。翻訳はいつになることやら。

 

新刊が出る。『ミステリを書く! 10のステップ』東京創元社 1500円 ISBN4-488-02427-0 四六ソフトカバー 280ページ。

今回の新規ページは「『大菩薩峠』論」。

 

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