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更新日記2002.07.11

更新日記2002.07.11

ビル・S・バリンジャー『煙で描いた肖像画』を読む。なんとばりばりの50年代テイストの青春ミステリではないか。偶然にも(ほんとうに偶然らしい)ビルバリ発掘が重なって、少し出遅れた格好になったこちらも「悪女もの」といえば、絵に描いたような悪女ものだ。いや、絵ではなく、あくまでスモーク、曇りガラスを通したように描かれているのだが、このスモークは絶対にザ・プラターズ『スモーク・ゲッツ・イン・ユア・アイズ』の煙でなければいけない。

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捜す男、捜される女。交差する叙述が交互に置かれて、最後に合流するというビルバリ得意のストーリーテリングだが、その最初の試運転が本作になるらしい。なるほど、この描き方だから、あの結末になるわけか。じつはポートレイト・イン・スモークは、対象の女にではなく、他ならぬ自分の身に起こっていたのだという皮肉な結末。ここから延長線を引っ張っていくと、ポール・オースターの気取った作品になるのだろう。こちらの本家は気取ることなく、いさぎよく技巧に徹している。それがかえっていま読むと瑞々しい。

今回の更新は、ブックガイドの一部。
その他、裏ページなど。

 

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