更新日記2002.05.10
『クローン』をビデオで観たら、P・K・ディックの「贋者」の映画化だった。期待どおり、というか予想したとおりの映像なので、観たことをいたく後悔した。主人公が麻酔剤をうちこまれて全身痙攣を起こし、ストレッチャーで長い廊下を運ばれるシーン。あれはわたし自身の入院のときとほとんど同じ光景ではないか。まったく何ということだ。仰向けになった視界に映る暗い照明が海の底のように流れていく。どうしてそんなものを映像で事改めてまた観なければいけないのか、と思う。入院のときの妄想レベルの出来事は、困ったことに、記憶の澱からなかなか去っていかない。ほぼ完璧に憶えている。つまらない三文小説のように間延びしたストーリーの連続なのにこれはおかしなことだ。映画の主人公は、昏睡から醒めると「おまえは爆弾を内蔵されたレプリカントだ」と告げられる。人間そっくり、記憶もまるごとある。ただし中味は入れ替わっている、というわけだ。
ディックの悪夢にはさんざん付き合った。悪夢をさまよううちに、いつの間にか、そうした物語世界の妄想にひたりきるようになり、病気のなかでそれをそのまま追体験する羽目になってしまった。あまり上等のこととはいえない。映画の進行は、まるでわたしの妄想をたどるかのように、いちいち見憶えがあった。面白いというのか、何というのか、妄想を培養しすぎたツケは大きかったのかもしれない。見憶えのある映像を観たって大して興味は引かれない。退屈というより、やはり不愉快なのだった。
仕事が進まず、苛々する毎日。
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